周南市におけるフッ化物洗口をはじめとする歯科保健活動の成果の検証
「1人当たり平均う蝕歯数の経年推移からの分析」と「受診率・医療費からの分析」
はじめに
事業仕分けが叫ばれて、行政は事業の費用対効果の検証を始めた。県下でトップクラスの歯科保健活動に理解のある周南市においても例外ではなく、毎年10月の次年度予算案作成時には、市より「周南市で行っているフッ素洗口の効果を証明する何かありませんか」と、質問される。フッ化物洗口のう蝕予防効果は、すでに多くの研究が証明するところであるが、「周南市で行っている・・・・・・」というところがポイントで、徳山歯科医師会としても『周南市のフッ化物洗口の効果』を実証したいと思っていた。
この度、㈱東ソー健保組合のご理解・ご協力のもと、さらに日本歯科総合研究機構の恒石美登里先生のお力添えをいただき、長年の懸案に回答を得ることができた。
本レポートは、平成15年より周南市で開始した3・4歳児(園児)から14歳児(中学生)を対象としたフッ化物洗口の効果を検証するものである。
資料および方法
1.1人当り平均う蝕歯数の経年推移からの分析
1)資料および分析
3歳児と12歳児の平成11年から23年までの1人当たり平均う蝕歯数の比較を行った。資料として、3歳児については、全国及び山口県データは、厚生労働省・母子歯科保健調べを、周南市は周南市健康管理システムのデータを使用した。また、12歳児における全国及び山口県データは、文科省・学校保健統計及び山口県歯科医師会調べを、周南市データは山口県歯科医師会調べを使用した。
2.受診率・1日当たり医療費・1人当たり医療費からの分析
1)資料
東ソー健保組合の協力により、下記に示す内容の『東ソー健保被扶養者数及び歯科受診実績』(参照:表―1)を作成していただき、分析した。紙面の都合上、表は平成10年度分の歯科受診実績のみを掲載する。
別ウィンドウ表示<表-1:東ソー健保被扶養者数及び歯科受診実績>
- 株式会社東ソー健保組合員の被扶養者のうち、6歳から23歳までを対象とした。
- 全国・山口県在住・周南市在住の被扶養者を対象に、歯科受診者数・延日数・総歯科医療費を調べた。歯科医療費は、う蝕治療・歯肉炎および歯周疾患・その他歯及び歯の支持組織の障害に関わるものとした。
- 調査期間は、平成10年より平成23年までの14年間とした。
2)分析
平成15年にフッ素洗口を開始した時点で3~7歳児であった対象群がそれぞれ6~10歳児になってからの6年分の受診率・1日当たり歯科医療費・1人当たり歯科医療費を比較した。フッ素洗口を実施していない平成16年に16歳児であった者(便宜上対照群とする)についても、16~23歳までの受診率・1日当たり歯科医療費・1人当たり歯科医療費のデータを示した。
結果ならびに考察
1.1人当り平均う蝕歯数の経年推移からの分析
1)3歳児(参照:図―1)
平成13年から平成15年において、周南市は全国および山口県平均値よりも良好な傾向を示すが、平成16年以降は同レベルで推移している。なお、平成21年以降、周南市の数値が増加しているのは、3歳児健診の対象者を3歳児から3歳児6カ月に変更したためと思われる。
2)12歳児(参照:図―2)
すべての年度において、周南市は全国及び山口県平均値よりもう蝕歯数は同様、または下回り、良好な傾向が確認できる。周南市は平成15年より、すべての4~14歳児に対してフッ素洗口を実施してきている。平成15年当時4歳児であった幼児は、平成23年に12歳児となっており、平成16年以降に12歳を迎える児童は、すべてフッ素洗口を実施していることとなり、平成23年まですべての年度において、全国値や山口県平均値よりも低いことは、フッ素洗口の成果による可能性がある。さらに平成15年以前も、全国や山口県平均値よりも良好な数値を示しており、周南市におけるフッ素洗口以前からの歯科保健活動成果がよる可能性も高い。
(なお周南市では、昭和45年よりフッ素イオン導入を実施しており、平成15年にはフッ素洗口に切り替えた。かなり以前より継続的な歯科保健活動を実施してきている。)
3)今後の課題
3歳児(3歳児半)時の1人当たりのう蝕歯数の状況は全国並みであり、妊産婦等を含めるなど、より早期の介入も重要であると考える。
2.受診率・1日当たり医療費・1人当たり医療費からの分析
全国・山口県・周南市の比較より
平成15年に3~7歳児であったグループ(参照:図ー3・4・5)が、それぞれ6~10歳児になってからの6年間(平成18~23年)についての受診率・1日当たり歯科医療費・1人当たり歯科医療費について図に示した。周南市は山口県や全国と比較して全体的に数値が低い傾向が見られた。
同程度の年齢層を比較できないが、平成16年に16歳児であったフッ素洗口を実施していないグループ(参照:図-6)の平成16年以降のデータを見ると、周南市はやや低い傾向が見られるため、直接は比較ができないが、フッ素洗口の影響を、歯科医療受診および歯科医療費の状況だけでは説明はできない。
今後の課題として、山口県や周南市において20歳以降の歯科医療費が全国値と比較して増加する傾向を認めたことより、その原因と対策が必要であると思われる。
結論
周南市においては、昭和45年よりフッ素イオン導入を実施してきており、平成15年にはフッ素洗口に切り替えるなど、小児から学童期のう蝕予防を含めた歯科保健活動を継続してきた。特にフッ素洗口は4~14歳までのすべての児童を対象としている。周南市の平均う蝕歯数を山口県や全国と比較すると、3歳児では低い傾向を示さないが、12歳児では、平成13年以降ほぼすべて全国平均値より低い数値である。このことは、3歳児以降の何らかの歯科保健活動の成果であると言え、フッ素洗口もその1つと考えられる。
・フッ素洗口の効果を受診率・1日当たり医療費・1人当たり医療費から分析してみたところ、周南市は、全国又は山口県と比較して、全体的に数値が低い傾向が見られた。(直接は比較できないが、フッ素洗口の経験のない16歳以降のデータを見ると、明らかに全国より低いということまでは言えない。)
・フッ素洗口は、う蝕予防には有効であるが、医療費を下げるまでは言えない。しかしながら、歯科医師会と提携し、独自に歯科検診を実施しているほど歯科保健に関心の高い東ソーにおいても、20歳以降での歯科医療費が急増することを考えると、周南市民一般への対策を考える必要がある。このことからも、3年前より行われている19歳から40歳までの1年1回の無料歯科検診(いい歯スマイル検診)は、将来を考えると必要不可欠であろう。